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SF回顧録 ~星を継ぐもの、異星の客

〈愛すべきSF〉

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一番好きなジャンルはSFである。

なぜか?

過去いろんなジャンルの本を読んできたが、SFは総じて

・外れがない(くだらない本に出合う率が低い)

・ハッピーエンドである(もしくはそれに準じるカタルシスが得られる)

 

つまり、読んでいて楽しい、気分がよい。

世間の評判などを知らなくてもよい。ジャンルがSFでさえあれば、作家もタイトルも無視して、古本屋の100円棚にあるものをごっそりさらって、片っ端から読んでいけば、ほぼ100%良書である。もちろん実際はそんなことはないが、こう言い切ってしまいたいくらい、SFというジャンルに対する私の信頼度は高い。

近いジャンルにファンタジーがある。SFもファンタジーも、ともに「空想読み物」であるが、ファンタジーは物語世界を構築するのに足枷がない。どんな魔法が飛び出そうが、不思議生物がいようがお構いなしである。一方で、SFは科学、とくに物理法則という足枷がある。SFだって確かに、超光速航法(いわゆるワープ)やタイムマシン、不死の生物、超能力といった不条理なガジェットは存在する。しかし、前提として、今私たちが生きている地球、宇宙、それらを支配している(と現代人が思っている)物理法則の延長線上において「ありえるかも」と読者に思わせないと、それはSFではなくなるのである。

この「ありえるかも」という足枷は作品によって強弱がある。最も強い足枷を課す、つまり現代の科学理論から逸脱せずにあり得ない物語を構築するのが「ハードSF」である。一方で、とりあえず未来世界が舞台でワンダーで面白ければいいじゃないかというジャンルが「ソフトSF」である。ソフトSFの有名どころは映画やアニメが多い。「スターウォーズ」や「宇宙戦艦ヤマト」や「ガンダム」がそうである。が、これらはジャンル的には「スペース・オペラ」と呼ばれる方が多い。そもそも「ソフトSF」という言葉の社会的認知度はほぼない。なので、異論を承知の上でいえば、「ハードSF」の対極が「スペース・オペラ」と考えている。

話が脱線しそうなので、もとに戻す。

さて、音も映像もなし、文字だけで勝負の「SF小説」となると、多かれ少なかれハードSF的な要素が間違いなく入っている。これが、作品に大きな普遍性と説得性をもたらし、読後の満足感(カタルシス)を担保してくれる。これは、純文学やファンタジーにはできない芸当だ。ストーリーがどれだけ羽目を外していても破綻しない。読者が理解、納得できるオチをつけてくる(他ジャンルとしてはミステリーが近いが、残念ながらミステリーに説得性はあっても普遍性はない)。これが、私がSFを一番に挙げる理由である。

そこまで私を夢中にさせるSF作品の中で、非常なカタルシスを与えてくれた作品が2つある。ホーガンの「星を継ぐもの」と、ハインラインの「異星の客」だ。

 

〈星を継ぐもの〉

ホーガンの「星を継ぐもの」は、ある近未来、月の裏側で宇宙服を着た人間の死体が発見されたことから物語は始まる。死体を科学的に調べると、何と死後五万年を経過していることがわかる。五万年前というと、ネアンデルタール人がウホウホやっていた時代だ。どういうことだ? というストーリーだが、すべて誤謬なく辻褄が合うのである。しかも「人類とはそもそも何者なのか」という古今東西あまたの哲学者が頭を悩ましてきた命題に対する、この作者なりの普遍的な回答さえ用意されている。

また、この作品の完成度の高さをさらに裏付けするものだが、最後の1行で読者をギャフンとうならせる工夫がなされている。本当に最後の1行で、である。たくさんの本を読んできたが、これほど計算高く、大きな効果を狙って、しかも成功している作品はそうない。すごい作品である。惜しむらくは、この作者の他の作品はいまいち、ということである(涙)。

 

異星の客

一方で、数々の作品を残し、そのどれもが名作というのが、かのSF御三家の一人、ハインラインである。本当に素晴らしい作品群。その中で最も記憶に残っているのが「異星の客」だ。

ある火星探険隊がとある理由で全滅するが、その遺児である赤子だけが取り残され、火星人によって育てられる。25年後に別の火星探険隊によって、地球に戻ることなるこの青年が主人公であるが、火星人に教育されたため、当然地球の常識は持ち合わせていない。しかしながら、この主人公がもつ「火星の常識」というものがただならぬもので、地球の常識、つまり富や名声、あらゆる差別、暴力、戦争などに疑問符を突き付ける。「汝は神なり」という概念から構築される火星の常識が大変なインパクト(例えばフリーセックスや食人)を持ちながら、万人を説得する普遍性を持って論理展開される。ハインライン恐るべしである。氏は別の作品、例えば「宇宙の戦士」では、軍隊的規律を賛美するかのような理論も展開していた。どのようなイデオロギーを題材にしても、超一流の思想文学をものにできる作家である。そういう面では、御三家の中で随一である。この「異星の客」のすごさは、当時ベトナム戦争の泥沼化によってアメリカで起こったカウンターカルチャームーブメント、ヒッピーたちの経典としてもてはやされたことからもうかがえる。

 

以上のように、SFは私にとって啓蒙の書なのである。新しい考え方や気づきを与えられ、幾度となく価値観を揺さぶられてきた。他ジャンルでは望めないカタルシスが得られるのである。